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そとん壁完全ガイド

そとん壁の外壁を選ぶ前に知っておきたいこと——仕上げ・色・施工と長持ちのコツ

そとん壁の外壁を検討中の方へ。自然素材の質感と透湿・防水、仕上げパターンや色選び、施工とメンテナンス、費用までを左官のプロが解説。かき落とし/スチロール鏝の違い、白華・クラック対策、20年後に後悔しない選び方とチェックリストを網羅。

そとん壁とは|素材・歴史・基本性能

白洲(シラス)系左官材の成り立ち

そとん壁」は、南九州に広く分布する火山噴出物“シラス(白洲)”を主原料にした左官用仕上げ材です。細かなガラス質の粒子と多孔質構造を併せ持ち、軽量でアルカリ性が高く、カビが生えにくい特性を備えます。土壁や漆喰の系譜に連なる“塗り壁”でありつつ、工業的に選別・調整された骨材と結合材を用いるため、品質の均一性や施工再現性が高いのが特徴です。住宅の外壁で注目され始めたのは1990年代後半以降。自然素材志向の高まりに加え、地域資源を活かす素材として設計者からの採用が広がり、現在は新築・改修の双方で定番の選択肢になっています。

二層構造と調湿・防水・断熱の仕組み

外壁では「下塗り+上塗り」の二層構成が基本です。下塗りは比較的細粒で密度を確保し、上塗りは粗めの骨材で表層に微細な凹凸と空隙をつくります。雨は表層で拡散・流下し、毛細管現象で内部へ引き込まれにくく、一方で水蒸気は空隙を通じて外へ抜けやすい――“防水性×透湿性”の両立がここで生まれます。多孔質ゆえの吸放湿は、外皮直下の湿度ピークを緩和し、結露・藻汚れの抑制にも寄与します。また、仕上げ厚と空隙によって日射熱の伝達が緩和され、下地構成にもよりますが体感的な 断熱遮熱 のアシスト効果が得られます。近年はグラスファイバーメッシュの“伏せ込み”が標準化し、クラック抵抗や面内強度が向上。適切な下地、防水テープ、開口部コーキングと組み合わせれば、長期の安定性が期待できます。

他素材(サイディング/モルタル/ジョリパット)との位置づけ

サイディングは工期短縮と初期コストで優位ですが、意匠の“素材感”や経年の味わいは塗り壁に軍配が上がります。モルタル直仕上げは硬質で割れやすく、再塗装前提の運用が一般的。ジョリパットは樹脂系で意匠バリエーションが豊富、再塗装もしやすい一方、透湿挙動や鉱物系の マット仕上げ な質感はそとん壁に一日の長があります。要するに、そとん壁は「自然素材の風合い」「透湿と防水のバランス」「重厚な陰影」を求める計画に強く、部分使い(玄関・中庭)から全面使いまで対応可能。20年先を見据えた外皮設計では、色選び・季節要因・雨仕舞いなど“運用前提のディテール”をセットで考えることで、本来の性能と美観を最大化できます。

この項のまとめ

  • そとん壁は南九州の火山噴出物「シラス」を主原料とする左官用塗り壁で、均一品質・自然素材の風合いが特長。
  • 下塗り(細粒・密度確保)+上塗り(粗骨材・空隙)の二層構造により「防水性×透湿性」を両立し、結露・藻汚れを抑制。
  • 多孔質構造が吸放湿と日射熱の伝達緩和に寄与し、体感的な断熱・遮熱のアシスト効果が期待できる。
  • 近年はグラスファイバーメッシュの伏せ込みが標準化し、クラック抵抗や面内強度が向上(適切な下地・雨仕舞いと併用が前提)。
  • サイディングや樹脂系仕上げに比べ、素材感・透湿挙動・重厚な陰影で優位。色選び・季節条件・ディテール設計をセットで検討すると20年先まで美観と性能を活かせる。
そとん壁の外壁

メリット・デメリット総覧(20年目線)

見た目(意匠性)/経年変化

そとん壁の最大の魅力は「素材感」と「陰影」です。骨材の粒立ちがつくるマットな表情は、日射の角度や季節で印象が変わり、年月とともに落ち着いた風合いへと熟していきます。部分使いでも外観の格を上げやすく、全面使いなら重厚さと一体感を得られます。一方で、濃色は白華や色ムラが目立ちやすく、立地によっては雨筋や藻の付着が視覚的に気になる場面もあります。淡色寄りの選択と、軒の出・水切り・庇計画で見え方の劣化を抑えるのが長期安定のコツです。

性能と気象条件への強さ・弱さ

二層構造と多孔質によって「防水しながら透湿する」点は、内部結露や塗膜膨れの抑制に利があります。直達雨が多い面でも、表層で拡散・流下しやすく、下地に達しにくいのが長所です。反面、施工直後の急な降雨や、冬季の低温多湿は仕上がりの安定を損ねます。南面の夏季は乾きが早すぎ、北面の冬季は遅すぎる――この“乾燥差”を見越した面分割、人数配置、養生と乾燥時間の管理が20年品質の鍵となります。

費用・工期・メンテ頻度のリアル

初期費用はサイディングより高く、ジョリパットと比較しても仕上げや面積によっては上振れします。工期も左官手間と養生期間が必要で、天候の影響を受けやすいのが実務上の弱点です。ただし再塗装前提の外皮より、洗浄・部分補修・コーティングの選択肢で美観を維持できれば、ライフサイクル全体では十分に競争力があります。10~15年スパンで“全面更新”より“要所のケア”で回す設計・運用が理にかないます。

トラブルの芽と予防

クラックはメッシュ伏せ込みと適正下地で大幅に減りますが、ゼロにはできません。割れやすいのは開口部四隅、掃き出し窓下、庇のない入隅など。フェルト防水+防水テープ、下塗り時の隠しコーキング、上塗り後の仕上げコーキングという多層対策で“割れても濡らさない”発想が有効です。白華は寒冷期・濃色で顕在化しやすく、計画段階で色選びと施工時期を調整。発生時は酸性洗浄、防止剤、再仕上げを症状別に選ぶのが定石です。

20年先を見据えた意思決定

「素材感を最優先」「透湿と重厚感を取りたい」なら、そとん壁は強い選択です。逆に、工期厳守・初期費用最小・再塗装で色替えを頻繁に楽しみたい――といった要望には別素材が合う場合もあります。最適解は“場所×色×パターン×時期”の組み合わせで決まります。玄関・中庭はアクセントとして映え、道路側の吹き曝し面は庇・水切り・板金との複合でリスクを低減。計画段階からディテールとメンテの方針をセットで設計すれば、20年後に「選んで良かった」と言える外皮になります。

 
 

この項のまとめ

  • そとん壁の価値は「素材感と陰影」。濃色は白華・色ムラが目立ちやすく、淡色+庇・水切りなどの計画で経年の見え方を安定させる。
  • 二層構造の透湿×防水は結露・藻汚れ抑制に有利。一方、夏冬の“乾燥差”に左右されやすく、面分割・人数配置・養生での乾燥管理が品質の鍵。
  • 初期費用と工期は重めだが、洗浄・部分補修・コーティングを前提に回せばライフサイクルコストで戦える。10〜15年は「全面更新」より「要所ケア」。
  • トラブル予防は多層防水とディテール徹底:メッシュ伏せ込み+フェルト防水・防水テープ、下塗り隠しコーキング&上塗り仕上げコーキング。白華は色選び・施工時期調整と酸性洗浄/防止剤で対応。
  • 20年先を見据えた意思決定は「場所×色×パターン×時期」の組み合わせ。玄関・中庭は映えるアクセント、吹き曝し面は庇・水切り・板金併用でリスク低減。
そとん壁のイメージ

仕上げパターンと選び方

代表パターンの特徴と向き不向き

かき落とし:骨材を露出させる重厚な表情。陰影がはっきり出て、汚れやすい立地でも雨筋が目立ちにくい反面、出隅のライン出しや塗り圧管理に熟練を要します。クラシック〜和モダンの外観に好相性。
スチロール鏝仕上げ:平滑〜微細テクスチャの中間。抑え方でツヤの出方や陰影が変わり、職人の手癖が出やすい“指名施行”向き。 高圧洗浄 (弱圧)との相性が良く、メンテ運用がしやすいのが利点。
一条波・三条大波:横流れの陰影で外観に伸びやかさを与えるパターン。水平ラインが強調されるため、軒やバルコニーの水平要素と合わせると統一感が生まれます。継ぎ目計画と面割りが仕上がりの鍵。
さざ波:細かいリズムで上品な陰影。住宅密集地や狭小間口でもノイズになりにくく、外構 や植栽とも馴染みやすい万能型。
渦巻き:個性が際立つアート寄りの仕上げ。面ごとに表情が変わるため、全面使いより“アクセント面”で効果的。雨筋が走ると渦が強調されるので、庇・水切り配置の事前検討が必須です。

色とパターンの組み合わせ原則

濃色×粗い骨材は陰影のダイナミクスが増す一方、白華や軽微な色ムラが強調されがち。濃色に挑むなら、波系やさざ波の“流れ”を使ってムラを意匠化するのがコツ。淡色×かき落としは定番で失敗が少なく、和洋どちらにも合わせやすい。スチロール鏝は色幅が広く、微妙なトーン差でモダンにもナチュラルにも振れます。

立地・方位・汚れの見え方

道路側や軒ゼロの吹き曝し面は、**縦流下する雨筋が目立ちにくいパターン(かき落とし・さざ波)**が有利。海沿い・農地隣接など塩害・粉塵リスクが高い環境では、平滑寄り(スチロール鏝)+定期洗浄の運用設計が効きます。南面は乾きが早く施工難度が上がるため、面積分割と職人数の確保が必須。北面は乾きが遅く、白華の見え方を抑える意味でも淡色が安定です。

ディテールと施工難度のリアル

出隅入隅、サッシ廻り、幕板・水切りとの取り合いはパターンによって“逃げ”の許容量が変わります。かき落としは角のラインが命。コーナー定木の透け対策(着色・同系色化)や塗り圧の均一化で完成度が決まります。波系は継ぎ目でリズムを切らない面割りが重要。スチロール鏝は均質に見えるほど手数が増えるため、単価と工期の調整を。

サンプル板とモックアップの使い方

A4見本では粗さ・陰影・色の見え方が再現し切れません。最低でも450×600mm程度のサンプル板を、外で日向・日陰・朝夕に見比べるのが鉄則。玄関袖壁など実面で1〜2㎡のモックアップを先行施工し、“離れて見る”検証を行うと失敗が激減します。写真は広角と望遠の両方で記録し、施主・設計・施工の三者で合意形成を。

選び方フロー(簡易)

  1. 建物のコンセプト(和・モダンインダストリアル

  2. 立地リスク(雨掛かり・粉塵・塩害)と方位

  3. メンテ方針(洗浄前提か、部分再仕上げ前提か)

  4. 色レンジ(濃色に挑む?淡色で安定?)

  5. 面割りとアクセントの有無(全面か、見せ場づくりか)

この順に絞り込めば、“映えるのに維持しやすい”最適パターンへ自然に到達します。

この項のまとめ

  • 代表パターンの要点:かき落とし=重厚で汚れに強いが角のライン管理が難、スチロール鏝=均質・洗浄しやすい、波系=水平リズムで面割り計画が肝、渦巻き=アクセント向き。
  • 色×パターン原則:濃色は白華・ムラが出やすいため波系やさざ波で“流れ”に乗せて意匠化。淡色×かき落としは定番で失敗が少ない。
  • 立地・方位対応:吹き曝しや道路側は雨筋が目立ちにくいパターン(かき落とし・さざ波)を。塩害・粉塵環境はスチロール鏝+定期洗浄が有利。
  • ディテール難度:かき落としは出隅の定木透け対策と塗り圧均一が決定打。波系は継ぎ目でリズムを切らない面割り、鏝仕上げは“均質ほど手数増”。
  • 失敗回避の手順:A4見本では不十分。屋外で大判サンプルと実面モックアップを朝夕・日陰日向で確認し、設計・施主・施工の三者で合意形成。
経年も考慮して外壁を選ぼう

色選びのセオリー(白華・色ムラを踏まえて)

淡色・濃色のリスクと見え方

そとん壁は多孔質ゆえ、色は「顔料の濃度」だけでなく「陰影の出方」で体感的に変わります。**淡色系(白〜明るいグレージュ)**は上品で面のムラが目立ちにくく、遠景でも建物のボリュームが軽く見えるのが利点。白華が出ても視覚ノイズになりにくいため、長期の安定を狙うなら第一候補です。**中間色(サンド、薄グレー)**は周囲の素材と合わせやすく、汚れの許容度が高い“無難の最適解”。濃色(チャコール、濃茶、深緑)は陰影が力強く、デザイン性は高いものの、施工時期や乾燥条件の影響を受けやすく白華・色ムラが相対的に目立ちます。濃色を選ぶなら、面を割ってアクセント面に限定する、波系パターンで流れをつけてムラを意匠化する、庇・水切りで雨筋の走りを制御する、の三点をセットで検討してください。

季節・方角・周辺素材との相性

色は“気象×立地×周辺材”で見え方が変わります。南面は日射で乾きが早く、濃色に白華が出た場合でも早期に落ち着きやすい反面、**施工段取り(面積分割・人数配置)**が難度を上げます。北面は乾きが遅く、白華・藻の視認性が上がるため、淡色〜中間色が安定。海沿い・農地近接は塩害・粉塵の付着が多く、濃色は雨筋が強調されがち。スチロール鏝やさざ波と組み合わせ、弱圧の定期洗浄を運用計画に含めると美観維持が容易です。外構・屋根・サッシ色との相性も重要で、黒サッシ×濃色壁は締まる一方、熱膨張や汚れのコントラストが強くなります。**木部(レッドシダー等)**と合わせる場合は、木の経年で灰褐色に落ちることを見越し、壁はやや明るめにしてコントラストの余白を残すのがコツ。石・タイルを併用するなら、**基調色(壁)+同系の中間色(石)+濃色アクセント(金物)**の三点構成で“散らからない”配色に。

定木透け対策とライン出し

色選びはディテールと不可分です。そとん壁は出隅のラインが美観を決定づけますが、市販のコーナー定木は白orグレーが基本。淡色なら問題になりにくい一方、濃色では定木の“輪郭透け”が起こりがちです。対策は三つ。(1)定木を事前に同系色へ着色し、透けを相殺。(2)木定木+高精度のライン出しで樹脂定木を使わず、かき落としでも輪郭の“にじみ”を抑制。(3)塗り圧を厚め均一にして骨材の露出バランスを安定化。さらにサッシ廻りや幕板との取り合いは、3〜5mmの色差が“影”として読まれるため、濃色運用時は 見切り材 の色を壁に寄せるか、**あえてコントラストを強め“意図したライン”**に格上げします。どちらを選ぶかは設計意図次第ですが、中途半端な中間色の見切りは“にごり”の原因。意図して近づけるor離すの二択で決めると失敗が減ります。

――総じて、色は「好み」で決める前に**“条件でふるいにかける”のが鉄則です。①立地リスク、②方位、③周辺素材、④パターン、⑤ディテール運用(定木・見切り・雨仕舞い)をチェックし、最後に好みで微調整。可能なら大判サンプルを屋外で朝夕に確認**し、実面モックアップで“離れて見る”検証まで行えば、長期に悔いのない色選びになります。

この項のまとめ

  • 色レンジの要点:淡色はムラ・白華が目立ちにくく安定、中間色は周囲と合わせやすい最適解、濃色は陰影が映えるが白華・色ムラが出やすくアクセント使い推奨。
  • 季節・方角対応:南面は乾きが早く段取り必須、北面は遅乾で淡色が安定。海沿い・農地近接は雨筋や付着物が出やすく、スチロール鏝+弱圧の定期洗浄が有利。
  • 周辺素材との相性:黒サッシ×濃色は締まるが汚れコントラストや熱膨張に留意。木部は灰褐色化を見越し、壁はやや明るめ。壁・石・金物の三点配色で散らかり防止。
  • 定木透け&ライン対策:濃色はコーナー定木の輪郭透けに注意。定木同系色化/木定木+高精度ライン/塗り圧均一化、見切りは“色を寄せるor強対比”の二択で明確化。
  • 決め方の鉄則:立地リスク→方位→周辺素材→パターン→ディテールの順で条件ふるい→最後に好み。大判サンプルを屋外の朝夕で確認し、実面モックアップで“離れて見る”。
そとん壁と下地の重要性

下地と納まり|割らない・汚さないための設計要点

ラス・フェルト防水・防水テープの基本

そとん壁は“仕上げ材の性能=下地の質”で決まります。まず構造下地の直角・面精度を確保し、透湿防水シート(フェルト)を連続させて気流止めを徹底。重ね幅は一般部100mm以上、開口部・入隅は二重張り+コーナーパッチで弱点を潰します。貫通部・胴差・胴縁の切欠きにはブチル系防水テープを先張りし、上下水の流れが読めるよう“上勝ち”で納めるのが鉄則。ラス(金網)はJIS相当の亜鉛めっき波形ラスを推奨し、ピッチ150mm以下/端部100mm以内で確実に留め付け。ジョイント部は50mm以上の重ね+継ぎ目オフセットで四隅交差を避けます。ラス浮きを残すとモルタル厚が安定せず後のクラック要因になるため、スペーサーでかぶり厚(目安10〜15mm)を均一に確保。下塗りはメッシュ伏せ込み前提の平滑仕上げを目指し、吸い込み差を抑えてから上塗りへ進みます。

開口部・掃き出し窓・水切りの雨仕舞い

割れ・漏水が最も起きやすいのが開口部周りです。サッシ四隅には45°のコーナーパッチ(防水テープ)+ラスの四隅切り欠き回避を行い、ひび割れ誘発の“十字応力”を逃がします。下端は水切り金物(ドリップ付)で確実に排水し、塗り厚との取り合いで見切り縁(目地棒)を設けて厚み・ラインを安定化。掃き出し窓下は雨だれが集中するため、下塗り時の隠しコーキング→上塗り後の仕上げコーキングまでをセット運用し、さらに板金水切りの袖延長で外壁面への“返り水”を減らします。庇なし・軒ゼロの計画では、そとん壁の表情を損なわない範囲で極薄の笠木・小庇を検討すると、雨筋・白華・藻の発生を抑制できます。開口部の見切り材は壁色に寄せるか、あえて濃色で意図的なラインにするかを事前合意しておくと、施工現場での迷い・やり直しが減ります。

出隅・入隅・定木の選定と色合わせ

そとん壁は角の“線”が命。出隅はコーナー定木の選択と着色が品質の分かれ目になります。市販定木は白・グレーが多く、濃色仕上げでは輪郭透けが生じがち。対策は(1)定木の同系色化(プライマー+着色)、(2)木定木でライン出し→金物不使用、(3)塗り圧を厚め均一にして骨材露出を整える、の三択。入隅はラスの駆け込み“重ね代”を十分に取り、メッシュも折り返して連続性を確保。パターンが波系の場合、入隅でリズムを切らない面割りが重要です。幕板・笠木・水切りとの取り合いは、塗り厚と目地の位置を5〜10mm単位で事前図面化し、現場で“寄せる/離す”を迷わないようにします。特にかき落としは出角・見切りのライン崩れが目立つため、掻き込み強度と方向を面ごとに統一。角で骨材が欠けやすい場合は、角当て養生+先掻き→本掻きの二段運用でエッジを保ちます。

メッシュ伏せ込みとひび割れ制御

メッシュはガラス繊維アルカリ耐性品を使用し、重ね幅100mm以上を厳守。クラックが出やすい開口部四隅・胴差・庇取り合い・バルコニー下端ダブルメッシュで面内剛性を底上げします。メッシュは**“真ん中”に伏せ込む**のが基本で、表層寄り/下層寄りの偏りはクラック誘発に直結。下地の伸縮や温度差に備えて、**伸縮目地(誘発目地)**を長尺面に適宜設置し、意図した位置に応力を集める設計が有効です。

施工段取りと品質管理

同一面は**“塗り切り”できる人数と天候で工程を決めます。夏季南面は乾きが早いので面積分割(スパン割)を細かく、冬季北面は加温・送風・養生期間を多めに見ます。打合せ段階で許容色差・表情ムラの範囲**を写真で共有し、実面モックアップ(1〜2㎡)で合意形成。検査時は、厚みゲージ・割付図・雨仕舞い写真を添えた引渡しチェックリストで可視化すれば、施工者・設計者・施主の納得度が上がり、将来の補修時にも判断材料として活きます。

――要するに、下地連続性・雨仕舞い・角の線を外さなければ、そとん壁は長期に安定します。意匠は“最後の上塗り”で決まるのではなく、見えない層とミリ単位の納まりで決まる――これが左官の外壁を割らず・汚さず・美しく保つための設計要点です。

この項のまとめ

  • 下地一体化が最重要:透湿防水シートの連続・上勝ち納め、防水テープの先張り、JIS相当ラスを適正ピッチで留め、かぶり厚10〜15mmを均一化。
  • 開口部の雨仕舞い徹底:四隅コーナーパッチ+ラス切欠き回避、水切り金物と見切りで厚み・ライン安定、隠し→仕上げコーキングの多層対策、小庇・笠木で雨筋抑制。
  • 角の“線”を制す:出隅は定木の同系色化/木定木採用/塗り圧均一で透け防止。入隅はラス・メッシュの折返しで連続性を確保し、面割りでリズムを切らない。
  • ひび割れ制御:アルカリ耐性ガラスメッシュを中央に伏せ込み、重ね100mm以上。開口部・庇取り合い等はダブルメッシュ+誘発目地で応力を意図的に分散。
  • 段取りと品質管理:季節・方位に応じた面分割と人数計画、加温・送風・養生の事前設計。実面モックアップで合意形成し、厚み・割付・雨仕舞い写真を添えた引渡しチェックリストで可視化。
そとん壁の施工をどう判定するか?

施工フローと品質管理(現場段取り)

下塗り→メッシュ伏せ込み→上塗りの標準手順

スタートは吸水調整と面精度の確保から。素地の粉塵・レイタンスを除去し、必要に応じて下地調整材で段差を整えます。下塗りは“厚みをつくる層”として均一さを最優先。コテ跡は浅く、角はダレさせずに“後工程のガイド”になる平滑面を出します。硬化の“のび”を見計らい、ガラスメッシュを中央位置に伏せ込み、ジョイントは重ね100mm以上・四隅交差を避けてずらします。翌日以降、吸い込み差が落ち着いてから上塗りへ。かき落としや波系など仕上げ別に可使時間と乾きの読みを組み立て、面を途中で止めない“塗り切り”段取りでムラと継ぎ目を回避します。

コーキング(隠し/仕上げ)と多層防水

漏水クレームの多くは開口部周り。ラス前のフェルト+防水テープで一次防水、下塗り時の隠しコーキングで二次、上塗り後の仕上げコーキングで三次防水という“重ね技”で守りを固めます。サッシ四隅はテープのコーナーパッチとラス切欠き回避で応力集中を逃がし、掃き出し窓下は水切り金物をドリップ付で採用。塗厚との取り合いには見切り材を使い、ラインと厚みを安定させます。庇ゼロの面や吹き曝し面は、小庇・笠木・水切りで雨筋の経路を制御し、白華・藻の発生源を断ちます。

人数配置・面積分割・日当たり対応

品質は“段取り八分”。夏の南面は速乾で追われるため、面積分割(スパン割り)を細かくし、仕上げ開始から終盤まで手数の多い職人を連続投入できるように班編成します。冬の北面は遅乾ゆえ、前夜の加温・送風・露結防止を計画に入れ、凍害リスクの閾値(気温・露点)を越えないよう作業時間を短く区切る。風速・湿度で可使時間は変わるため、気象アプリ+現場温湿度計で“今日の持ち時間”を数値で把握。面分け境界は雨が走らない位置に置き、波系はリズムを切らない割付に。

品質検査と是正のルーチン

各工程で中間検査→是正→次工程を徹底。下塗り完了時は厚みゲージと通り糸で面の狂いを確認し、メッシュ伏せ込み後は浮き・シワ・ジョイントずれの写真記録を残します。上塗り直後は日陰・斜光でコテムラをチェックし、かき落としは掻き方向・掻き込み量を面ごとに統一。開口部・水切り・見切りは3〜5mmの影で“意図したライン”になっているかを目視とスケールで確認。引渡し時は、割付図・雨仕舞い写真・材料ロット・気象記録を添えたチェックリストを施主へ渡し、将来の補修・再仕上げの判断材料にします。

――要点は、塗り切り段取り×多層防水×数値管理。この三本柱を守れば、職人の技量差があっても、そとん壁の表情は安定し、20年先まで“狙った質感”を保ちやすくなります。

 
 

この項のまとめ

  • 標準手順は「下塗り→メッシュ中央伏せ込み→上塗り」。塗り切り段取りで継ぎ目・ムラを回避し、ジョイントは重ね100mm以上で四隅交差を避ける。
  • 防水は三層で守る:一次(フェルト+防水テープ)、二次(下塗り時の隠しコーキング)、三次(上塗り後の仕上げコーキング)+ドリップ付水切りと見切り材でライン安定。
  • 段取りの核心:季節・方位に応じて面積分割と人数配置を最適化。夏南面は細かく分割、冬北面は加温・送風・露結対策を計画に組み込む。
  • 当日の“持ち時間”を数値管理:気象アプリと温湿度計で可使時間を把握し、面分け境界は雨筋が走らない位置に設定。波系はリズムを切らない割付に。
  • 品質検査ルーチン:各工程で中間検査→是正→次工程。厚みゲージ・通り糸・写真記録で可視化し、引渡し時は割付図・雨仕舞い写真・材料ロット・気象記録付きチェックリストを渡す。

季節・気象条件と仕上がりの関係

夏場(高温・強日射・低湿)の攻略

夏は乾き過ぎとの戦い。南面・西面は可使時間が短く、上塗り開始から“掻き”までの猶予が一気に縮みます。対策は(1)面積分割(スパン割)を細かくし、職人を帯状に流して“塗り切り”を維持。(2)直射を避ける仮設シート・日除けで表面温度を下げる。(3)下塗り・上塗りともに吸い込み差を事前に均し、コテ離れを安定させる。(4)水打ち・霧吹き養生は最小限に留め、表層だけ急冷→内部過乾燥というムラを避ける。風が強い日は蒸発が加速するため、風上から風下へ工程を流すとコテ跡の荒れを抑えやすい。午後は温度ピークでムラが出やすいので、勝負面は午前の早い時間に配置する計画が有効です。

冬場(低温・高湿・降霜)のリスク管理

冬は乾かなさとの戦い。5〜10℃付近で硬化は極端に遅くなり、夜間の露結・結露水が白華や色ムラの引き金になります。対策は(1)加温・送風・防露シートによる仮囲い。(2)前夜からの予熱で下地温度を底上げし、露点を跨がないよう管理。(3)濃色・かき落としは避けるか縮小し、淡色・鏝押さえ系に寄せてリスクを減らす。(4)酸性洗浄による是正を前提にしない工程計画(コスト・色安定の観点)。北面や谷風の通り道は養生期間を長めに、メッシュ伏せ込み後の中間養生を挟むと仕上がりが落ち着きます。早朝の着手は露が引くまで待ち、正午前後に主要面を施工するスケジュールが安定します。

雨・風・湿度と“施工可否”の判断基準

仕上がりを左右するのは温度だけではありません。相対湿度80%超+風速5m/s超は、表層だけ乾いて内部が遅れる“二重乾燥”や、砂ぼこり付着を誘発。降雨確率30%超で仮設が弱い場合は、上塗りの見送りが無難です。判断は感覚に頼らず、現場温湿度計と露点計算(気象アプリや簡易ロガー)で**「可使時間=(表面温度・湿度・風速)関数」を見積もるのが職人の合理性。面ごとの“持ち時間”をボードに記載し、開始・掻き・完了のタイムスタンプを残せば、次現場での再現性が上がります。庇・笠木・水切りは雨筋経路の“設計装置”**。吹き曝し面では小庇やドリップの有無で白華・藻の将来発生率が変わるため、色決めと同時に雨仕舞いを決定するのが定石。総じて、夏=過乾燥の減速、冬=遅乾の加速、雨風=表層汚染の回避という三原則を段取りに織り込めば、季節・気象が変わっても狙った質感を安定して再現できます。

この項のまとめ

  • 夏は“乾き過ぎ”対策:面積細分化+帯状施工、日除けで表面温度低減、吸い込み差の事前調整、風上→風下の工程流し、勝負面は午前中に。
  • 冬は“乾かなさ”対策:加温・送風・防露で仮囲い、前夜予熱で露点越え防止、濃色・かき落とし縮小、北面は養生長め+中間養生を挟む。
  • 施工可否の数値判断:相対湿度80%超・風速5m/s超・降雨確率30%超は要警戒。温湿度計と露点計算で可使時間を見積もり、タイムスタンプで記録。
  • 雨仕舞いは“経路設計”:庇・笠木・水切り・ドリップの有無で雨筋や白華・藻の将来発生率が変化。色決めと同時に雨仕舞い方針を確定。
  • 三原則の段取り化:夏=過乾燥の減速、冬=遅乾の加速、雨風=表層汚染の回避。段取りに組み込めば季節を跨いでも質感を安定再現。
そとん壁のトラブル

トラブル事例と対処(クラック・白華・剥離)

起こりやすい部位と原因マップ

外壁トラブルの多発ポイントはほぼ決まっています。開口部四隅・掃き出し窓下・軒ゼロの入隅・バルコニー下端・笠木取り合い

  • ヘアクラック:下地伸縮/乾燥差/面の“塗り止め”跡が主因。メッシュ位置が片寄る、重ね代不足、誘発目地なしが誘因。

  • マップクラック:急乾や強風、夏場の高温での可使時間超過。広面を少人数で無理に塗り切ったときに出やすい。

  • 白華(エフロ):冬期の結露・夜露、雨掛かり直後の乾燥不良、濃色採用時の視認性増。

  • 剥離・浮き:ラス浮き/かぶり厚不足/吸い込み差未調整/下地粉じん残りなど“前段”の問題がほとんど。
    まずは発生位置・面積・時期(季節)・気象を記録し、写真にスケールと方向(南面等)を入れて原因仮説を立てます。

酸性洗浄/防止剤/再仕上げの判断

白華は軽微→中度→重度で手当が変わります。

  • 軽微:自然落ちを待つ+弱圧洗浄。乾燥管理と雨仕舞い改善が先。

  • 中度希釈した酸性洗浄(メーカー指定)でムラを均し、十分な中和・水洗→乾燥を徹底。濃色は“戻り”を想定して試験施工を。

  • 重度:原因(露結・漏水)の根治が先。雨筋経路の変更(小庇・ドリップ)→必要なら部分再仕上げ
    コーティングは目的を明確に(防汚か吸水抑制か)。鉱物系の透湿挙動を阻害する製品は相性が悪い場合があるため、小面積のモックアップで光沢・色味・汚れ再付着を確認します。

クラック種別と補修設計

  • ヘアクラック(0.2mm未満):美観配慮の微粒子フィラー+同質材の薄掛けで埋め、模様合わせ。

  • 構造由来/幅広(0.3mm超)Uカット→弾性系シーリング→鉱物系補修材とし、必要に応じて面での再仕上げ。開口四隅は斜め補強メッシュの追い伏せで再発を予防。

  • 面全体のクラック傾向:メッシュ位置不良や誘発目地不足が主因。再仕上げ時にメッシュ中央化+目地追加で応力設計をやり直すのが近道。

剥離・浮きの是正ステップ

打診で範囲を確定→不良部撤去→下地の付着試験(簡易)吸い込み調整材で面を均質化→下塗り復旧→メッシュ伏せ込み→上塗り。境界部は段差をスロープで消し、パターンを既存に合わせます。原因が結露・漏水にある場合は、外装側の補修だけでは再発します。一次防水(シート・テープ)と板金経路を先に直すのが鉄則。

「ボロボロ落ちる」の誤解

ネットで見られる“ボロボロ”の多くは、かき落とし直後の微粉施工初期の表層骨材の自然脱落を誇張した表現です。現行の二層構成+メッシュ伏せ込みでは、躯体まで影響する崩落は例外的(下地不良・漏水放置など)で、定期洗浄や局所補修で十分に維持できます。むしろ雨仕舞い・色選び・季節運用を設計時からセットで決めることが、トラブルの“芽”をつむ最強の対策です。
――結論:原因を面・部位・季節で特定→相性の良い手当を小面で検証→面全体に展開。この順路を守れば、クラック・白華・剥離は“管理できる現象”になります。

この項のまとめ

  • 多発部位は「開口部四隅・掃き出し窓下・軒ゼロ入隅・バルコニー下端・笠木取り合い」。原因は乾燥差・下地精度不足・メッシュ位置不良・誘発目地不足・雨仕舞い不備。
  • 白華の手当ては段階対応:軽微=自然落ち待ち+弱圧洗浄/中度=指定酸性洗浄→中和→乾燥/重度=雨仕舞い改善や小庇追加→必要に応じ部分再仕上げ。濃色は試験施工必須。
  • クラック補修設計:0.2mm未満は微粒子フィラー+同質薄掛け、0.3mm超や構造由来はUカット→弾性シール→鉱物系補修材→場合により面再仕上げ。開口四隅は斜めメッシュ追い伏せで再発抑制。
  • 剥離・浮きの是正手順:打診で範囲特定→不良撤去→付着試験→吸い込み調整→下塗り復旧→メッシュ伏せ込み→上塗り。根因が結露・漏水なら一次防水や板金経路の補修を先行。
  • 「ボロボロ落ちる」は誤解が多い。現行の二層構成+メッシュで崩落は例外的。設計段階で雨仕舞い・色選び・季節運用をセットで決め、原因特定→小面検証→全体展開の順で管理すれば制御可能。
そとん壁のメンテナンス

メンテナンス&セルフケア

高圧洗浄の可否と目安

そとん壁は弱圧の洗浄なら可。原則は扇形ノズル・30〜50cm離隔・0.7〜1.0MPa(7〜10bar)程度からテストし、汚れの強い箇所だけ段階的に近づけます。直噴や回転ノズルは骨材欠けの原因。目地・開口部・見切り材には斜め当てで水を入れないこと。冬季は凍結前に完全乾燥、夏季は直射での急乾を避け、午前中の作業が無難です。藻・カビは中性〜弱アルカリ洗剤→清水リンスで十分落ちるケースが多く、強薬品に頼る前に物理洗浄を見直します。

コーティング材の考え方

採用するなら**鉱物系透湿を阻害しない撥水浸透型(シラン/シロキサン系)**が第一候補。皮膜形成型(アクリル等)は艶ムラ・はがれ・透湿阻害でトラブル化しやすく、基本は推奨しません。目的は(1)汚染抑制(2)吸水低減(3)高圧洗浄の頻度低減——のいずれかに絞ると選定しやすい。日陰の北面・水はね部・地際など限定運用が合理的です。必ず小面モックアップで色味・艶・撥水の“戻り”を確認し、5〜8年目安で再評価します。

年次点検のチェックポイント

年1回、次を巡回点検して写真記録を残します。

  • 開口部:四隅のヘアライン、コーキングの痩せ・割れ。

  • 水切り・笠木:ドリップ有効、ビス周りの錆・滲み。

  • 地際・跳ね返り:雨だれ帯、土砂はね防止の砕石帯の有無。

  • 北面・樹木近接:藻・カビの発生。

  • 面全体:白華の出方、雨筋の経路、面割り境界のムラ。
    同時に雨樋・ルーフドレンの詰まりを清掃し、外壁を汚す“源流”を絶つのがコツです。

DIYとプロ依頼の線引き

DIY可:弱圧洗浄、軽微な汚れ取り、コーキングの観察、写真記録。
プロ推奨:酸性洗浄(中和・排水管理が必要)、色合わせを伴う部分再仕上げ0.3mm超のクラック補修、高所作業。特にかき落としの模様合わせは熟練を要し、DIYでの“補修跡”は目立ちやすい領域です。

汚れを作らない運用

外構計画もメンテの一部です。地際は砕石帯で泥はね防止スプリンクラーの散水方向は外壁に当てない、植栽は外壁から離隔を確保。自転車・物置が接触する位置は当て板や蹴込みで接触痕を予防。海沿いは塩霧後48時間以内の真水洗いを習慣化すると堆積を抑えられます。

季節別の手入れ勘所

春は花粉・黄砂をやわらかいブラシ+低圧水で落とし、梅雨入り前に水切りと樋を点検。夏は藻の発生が早いので早期洗浄で根を張らせない。秋は落葉と雨筋の同時対策、台風後は取合い部の点検。冬は凍結・露結による白華の芽を見逃さず、原因が雨仕舞いにある場合は小庇・ドリップ追加など設計的処置を優先します。

再仕上げ判断の目安

(1)0.3mm超のクラックが面的に散在(開口四隅含む)、(2)白華・汚染が面積の20〜30%超で洗浄後も残存、(3)剥離・浮きの打診範囲が拡大傾向、(4)コーキングの連続劣化で雨水侵入が疑われる——いずれかを満たせば部分再仕上げ〜面替えの検討段階。先に**源流(漏水・結露・雨筋経路)**を改善し、その後に仕上げに触れる順序が鉄則です。

記録と可視化

年次写真・点検シート・洗浄履歴・材料ロットを一冊(またはクラウド)に集約。地図アプリで症状の位置ピンを打つと、季節・方位との相関が見えて再発防止策が精緻になります。——要するに、弱圧洗浄+透湿を損ねない撥水+年次点検の三点セットを“ルーチン化”すれば、そとん壁は手間は少なく、長く美しい外皮として運用できます。

この項のまとめ

  • 高圧洗浄は弱圧で:扇形ノズル・30〜50cm離隔・0.7〜1.0MPa目安、直噴/回転ノズルは避け、目地や開口部は斜め当て。冬は完全乾燥、夏は直射急乾を避け午前中に。
  • コーティングは透湿最優先:シラン/シロキサン系の撥水浸透型を小面テスト後に限定採用(北面・水はね・地際など)。皮膜系は原則避け、5〜8年で再評価。
  • 年次点検の要点:開口四隅のヘアライン/コーキング劣化、水切り・笠木のドリップとビス周り、地際の泥はね、北面の藻カビ、面全体の白華・雨筋—写真記録と樋・ドレン清掃をセットで。
  • DIYとプロの線引き:DIY=弱圧洗浄・軽汚れ除去・記録。プロ=酸性洗浄(中和管理)・色合わせを伴う再仕上げ・0.3mm超のクラック補修・高所作業・かき落としの模様合わせ。
  • 汚れを作らない運用&更新判断:砕石帯・散水方向・植栽離隔・接触保護・海沿いは48時間以内の真水洗い。再仕上げ目安=0.3mm超クラックが面的、白華/汚染が20〜30%超残存、剥離拡大、コーキング連続劣化。点検写真・洗浄履歴・材料ロットを継続保存。
そとん壁の費用感

価格と費用感|初期費用×維持費の見通

面積・パターン・足場・季節で変動する要素

そとん壁の見積は「単価×面積」だけでは読めません。まず、実塗り面積は開口部控除後に出隅・入隅・見切り周りの手間増を加味して調整します。次にパターン係数。かき落としや波系は“塗る→仕上げる”の二段工程で手数が増え、鏝押さえ系より単価が上がりやすい。さらに足場(設置・法令対応・飛散防止)、養生(サッシ・土間・植栽)、搬入搬出(袋物・残材回収)が別建てで積まれます。季節も費用に影響し、夏の速乾・冬の遅乾は人数増/養生日数増につながるため、繁忙期加算天候予備日を計画へ。概算式は
総額 ≒(基礎単価×実塗り面積×パターン係数)+足場+養生+搬出入+季節係数+予備費(5〜10%)
としておくと、実行時のブレを吸収できます。

他外壁とのトータル比較(10年・20年スパン)

初期費用はサイディングより高め、樹脂系仕上げ(ジョリパット等)と比べても仕上げ厚・手数の分だけ上振れしやすい。一方で、そとん壁は透湿×鉱物系の素材感により再塗装サイクルを長く取りやすいのが強み。10年スパンなら「弱圧洗浄+局所補修」で維持できるケースが多く、全面再塗装を前提としない運用が可能です。20年目線では、部分再仕上げの選択肢と撥水浸透材の再評価で美観を延命。すなわち、初期高・維持低のプロファイルに近づけられます。反対に、頻繁な色替えや意匠変更を楽しみたい計画には再塗装容易な樹脂系が適合しやすく、施主の運用思想で最適解は変わります。

見積書の見るべき箇所

チェック要点は三つ。

  1. 仕様の粒度下地(透湿防水シート・テープ)、ラス種類、メッシュ伏せ込み位置、下塗り厚み、上塗り材品番、パターン名が明記されているか。

  2. 雨仕舞いの範囲水切り金物(ドリップ付)の有無、隠しコーキング/仕上げコーキングの層別計上、開口部四隅のコーナーパッチ。ここが曖昧だと後日追加費用化しやすい。

  3. 仮設と予備費:足場の仕様(幅木・メッシュシート等)、天候予備日の取り扱い、写真・検査記録の提出可否。
    加えて、実面モックアップ費色替えサンプル板の扱いが見積に入っていると、後からの“想定外”を減らせます。複数社比較では単価の安さよりも、ディテールへの記述密度雨仕舞いの思想を重視。20年先の総支払額を左右するのは、ここに表れる“設計の丁寧さ”です。

この項のまとめ

  • 総額の考え方:(基礎単価×実塗り面積×パターン係数)+足場+養生+搬出入+季節係数+予備費5〜10%。実塗り面積は出隅・入隅・見切り手間まで加味。
  • パターンで単価差:かき落とし・波系は手数増で高め、鏝押さえ系は抑えめ。仕上げ工程(二段作業)の有無がコストを左右。
  • 季節・段取りの影響:夏の速乾/冬の遅乾で人数増・養生日数増。繁忙期加算や天候予備日を計画に含める。
  • LCCの要点:そとん壁は初期高・維持低を狙いやすい。10年は弱圧洗浄+局所補修、20年は部分再仕上げ+撥水再評価。頻繁な色替えは樹脂系が適合。
  • 見積チェック:仕様粒度(防水シート・テープ、ラス、メッシュ位置、厚み、品番、パターン名)、雨仕舞い範囲(水切りドリップ、隠し/仕上げコーキング、コーナーパッチ)、仮設・予備日・記録提出、有償モックアップ/色サンプルの明記。単価よりディテール記述密度を重視。

そとん壁とは|素材・歴史・基本性能

白洲(シラス)系左官材の成り立ち

「そとん壁」は、南九州に堆積する火山噴出物・白洲(シラス)を主原料にした左官用仕上げ材。多孔質で軽量、弱アルカリ性ゆえにカビが生えにくく、鉱物系ならではのマットな質感と陰影が得られます。土壁や漆喰の系譜に連なりつつも、現代は粒度選別や結合材の最適化が進み、ロットによるバラつきが少なく再現性の高い仕上げが可能です。外壁材として注目されたのは1990年代後半以降。自然素材回帰の潮流と、地域資源を活かす設計思想の広がりが追い風となり、新築・改修問わず“選ばれる塗り壁”として定着しました。

二層構造と調湿・防水・断熱の仕組み

基本構成は下塗り+上塗りの二層。細粒の下塗り層で密度と下地追従性を確保し、粗骨材の上塗り層で微細な空隙と凹凸をつくります。雨水は表層で拡散・流下して内部に滞留しにくく、一方で水蒸気は空隙を通って外へ抜けるため、防水性と透湿性が両立。多孔質が吸放湿のバッファとして働き、外皮直下の結露や藻汚れの発生を抑える効果も期待できます。近年はガラスメッシュの伏せ込みが標準化し、面内強度とクラック抵抗が向上。適切な透湿防水シート・防水テープ・コーキングと組み合わせれば、長期の安定運用がしやすい外皮になります。

他素材(サイディング/モルタル/ジョリパット)との位置づけ

サイディングは工期・初期費用で優位ですが、素材感や経年の味わいは限定的。モルタル直仕上げは硬質で割れやすく、再塗装前提の運用が一般的です。樹脂系(例:ジョリパット)は意匠バリエーションと再塗装の容易さが魅力な一方、鉱物系の乾いた質感や透湿挙動はそとん壁に軍配。つまり、重厚な陰影・自然素材の風合い・透湿バランスを重視する計画に強く、玄関や中庭のアクセントから全面使いまで幅広く適用可能です。成功の鍵は“素材選び=色・パターン・季節・雨仕舞いの総合設計”。この前提を満たせば、20年先でも「選んで良かった」と感じられる外壁になります。

この項のまとめ

  • そとん壁は南九州の白洲(シラス)を主原料とする鉱物系塗り壁で、マットな質感と深い陰影、カビの生えにくさが特長。
  • 基本は「下塗り+上塗り」の二層構成。表層で雨水を拡散・流下させつつ、内部の水蒸気は外へ抜けるため、防水性と透湿性を両立する。
  • 多孔質ゆえ吸放湿のバッファとして働き、外皮直下の結露・藻汚れを抑制。近年はガラスメッシュ伏せ込みが標準化し、クラック抵抗が向上。
  • サイディングは工期・初期費用で有利、樹脂系は再塗装が容易だが、鉱物系の乾いた素材感や透湿挙動はそとん壁が優位。
  • 採用成功の鍵は「色・パターン・季節・雨仕舞い」を含む総合設計。アクセントから全面使いまで対応し、適切運用で長期に“選んで良かった”外壁になる。
そとん壁 用途と部位の詳細

部位別・用途別の最適解

全面使い/部分使い(玄関・中庭・アクセント)

全面使いはボリューム感と一体感が最大化され、“素材の家”としての存在感が出ます。道路正面の吹き曝し面には庇・水切り・ドリップを必ず設け、雨筋経路を設計。面が大きいほど誘発目地の計画が重要で、サッシ割・バルコニー端部・幕板位置と整合させると意匠的にも自然です。色は淡色〜中間色が安定。濃色はアクセント面へ限定し、波系やさざ波で“流れ”を作るとムラを意匠化できます。
部分使いでは、玄関まわり・門柱・袖壁・中庭の囲いが効果的。近接で質感が読めるため、かき落としやフラット系などテクスチャを“触れそうな距離”で見せると満足度が高まります。玄関は土砂はね・雨返りが多く、地際300mmは板金・タイル蹴上げや砕石帯で守ると清掃性が向上。中庭は直射・風雨が弱いため濃色にも挑みやすい一方、散水設備のミストが壁に当たらないようノズル角度を調整しておきます。

内装に使う場合の注意点

内装そとんは吸放湿・消臭の体感メリットが大きく、玄関ホールや階段室、和室の床の間、寝室のヘッドウォールなど“滞在時間の長い場”に向きます。直射日光が長時間入る壁は退色や熱応力でムラが誇張されやすいため、レースや庇でコントロール。水廻り(洗面・トイレ)では飛沫域をタイルやパネルで腰高に張り分け、そとんは上部に。可動家具・ベッドヘッドなどの接触面では、角当てや 巾木 の高さを上げるなど“当たり防止”を検討します。照明は**面洗いの壁照明(ウォッシャー)で粒立ちが美しく出ますが、光が鋭いとコテムラを強調するので、広配光+演色性Ra90前後の穏やかな器具が無難。室内でもモックアップ(450×600mm以上)**を置き、朝夕と人工照明下での見え方を確認して最終決定するのが失敗回避の王道です。

板金・タイルとの取り合い戦略

異素材の**“寄せ/離し”は外装品質の肝。板金は水切り・笠木・見切りの三位一体で“雨を運ぶ装置”として設計します。ドリップの出寸は8〜10mmを目安にし、そとん面から5〜8mm離して影をつくると、汚れが“装飾的なライン”として読まれます。逆にフラット・モダンを狙うなら、同系色の極小見切りで影を消し、面の連続性を重視。
タイルは
飛沫・泥はね帯の盾として相性がよく、地際300〜600mmの腰張りが定番。色は壁の同系中間色に寄せると面の“腰折れ”感が出にくく、逆にアクセントなら明確な濃淡対比で意図を示すこと。目地は縦基調で雨筋と整合させると汚れが目立ちにくい。取り合いの見切りは、5〜10mmの段差(影)を作るか、ゼロに寄せるかの二択で曖昧さを排するのがコツです。
なお、サッシ周りは
四隅の補強(コーナーパッチ+ダブルメッシュ)隠し→仕上げコーキングの二段を標準化。掃き出し窓下の板金は袖延長で返り水を外に落とし、かき落とし面の掻き込み方向**は水の流れに沿わせると経年の汚れ線が目立ちにくくなります。

――まとめると、全面=目地設計と雨仕舞い、部分=接近視野での質感演出、内装=接触と照明の管理、取り合い=雨を運ぶ装置としての板金と腰張りタイル。この四本柱を場面ごとに最適化すれば、「映えるのに維持しやすい」そとん壁の使い分けが実現します。

この項のまとめ

  • 全面使いは「誘発目地×雨仕舞い」が肝:サッシ割・バルコニー端部と整合した目地計画+庇・水切り・ドリップで雨筋経路を設計。色は淡〜中間色が安定、濃色はアクセント面に限定。
  • 部分使いは近接視で質感を活かす:玄関・門柱・袖壁・中庭にかき落としやフラット系を配置。玄関は地際300mmを板金・タイルや砕石帯で泥はね対策、中庭は散水の噴霧が当たらないノズル角度に。
  • 内装活用は吸放湿・消臭が利点:玄関ホール/階段室/寝室など滞在の長い場に最適。水廻りは腰高までタイル張り分け、接触部は当て板・巾木で保護。照明は広配光の壁洗い(Ra≈90)で粒立ちを上品に。
  • 板金・タイルとの取り合い戦略:「雨を運ぶ装置」として水切り・笠木・見切りを設計。ドリップ出寸8〜10mm、そとん面から5〜8mm離して影ラインを作るか、極小見切りで影を消すかを明確化。地際300〜600mmのタイル腰張りは汚れ盾として有効。
  • 細部の標準化で長期安定:サッシ四隅はコーナーパッチ+ダブルメッシュ、隠し→仕上げコーキングの二段。掃き出し窓下は袖延長板金で返り水を外へ、かき落としは水流に沿った掻き方向で経年の汚れ線を抑制。

設計・施主のためのチェックリスト

【採用前ヒアリング】
・目的の優先度を決める(素材感/メンテ性/コスト/工期)。
・立地リスクを確認(雨掛かり・海沿い・粉塵・隣家距離)。
・色レンジ(淡/中間/濃)の方針と、濃色時の白華・雨筋許容度。
・使い方(全面/部分・玄関/中庭/門柱)と見せ場の位置。

【意匠・色・パターン決定】
・パターン(かき落とし/スチロール鏝/波系等)の狙い。
・大判サンプル(≥450×600mm)と実面モックアップ実施の可否。
・日向/日陰/朝夕での見え方を現地で確認。
・見切り・定木の「寄せる/対比」方針と着色有無。

【納まり・雨仕舞い設計】
・庇・水切り・笠木・ドリップ寸法(出8〜10mm、離れ5〜8mm目安)。
・開口部四隅のコーナーパッチ、掃き出し窓下の袖延長板金。
・誘発目地の位置(長尺面/サッシ割と整合)。
・地際の砕石帯・腰タイル(300〜600mm)計画。

【下地・仕様の明記(見積書・図面)】
・透湿防水シート種・重ね幅・防水テープの施工要領。
・ラス種類・留付ピッチ・かぶり厚、メッシュ種と伏せ込み位置。
・下塗り・上塗り厚みと材料品番、パターン名。
・隠しコーキング/仕上げコーキングの層別記載。

【施工計画・品質管理】
・季節別段取り(夏=面細分化、冬=加温・養生)と天候予備日。
・“塗り切り”人数計画、温湿度・露点の記録方法。
・中間検査(厚み・メッシュ・雨仕舞い)と写真提出。
・勝負面の施工時間帯(午前中心)と面分け境界の位置。

【引渡し・運用】
・引渡し資料(割付図、材料ロット、施工・気象写真、取扱い)。
・弱圧洗浄の手順、コーティング採否と再評価時期(5〜8年)。
・年次点検項目(開口部・水切り・北面藻・地際泥はね)と記録方法。
・不具合時の連絡窓口、補修の責任範囲と対応フロー。

編集後記

外壁選びは迷いの連続ですよね。色も季節も費用も、不安が尽きない。けれど条件を整え、納まりを丁寧にすれば、そとん壁は年月とともに必ず応えます。記録と対話を重ねましょう。あなたの「こうしたい」を、私たちが具体にします。焦らず一歩ずつ。

  1. 質問: そとん壁の仕上げパターンにはどんな種類がありますか?
    回答: 主に「フラット仕上げ」「かき落とし仕上げ」「引きずり仕上げ」などがあります。仕上げ方によって印象が大きく変わり、モダンから和風まで幅広いデザインに対応できます。
  2. 質問: そとん壁はどんな住宅におすすめですか?
    回答: 自然素材の風合いを重視したい方や、長期的なメンテナンスコストを抑えたい方におすすめです。和風からモダンまで幅広い住宅デザインに調和します。
  3. 質問: そとん壁は白華(しらか)やクラックは出ますか?対策は?
    回答: 塗り壁の特性上ゼロにはできませんが、メッシュ伏せ込みや多層防水、季節に合わせた段取りで大幅に抑制可能。白華は淡色が目立ちにくく、発生時は酸性洗浄・乾燥管理・雨仕舞い改善で対応します。
  4. 質問: メンテナンス方法は?高圧洗浄は使えますか?
    回答: 弱圧(0.7〜1.0MPa)・扇形ノズル・30〜50cm離隔での洗浄が目安。直噴や回転ノズルは避け、開口部は斜め当てに。藻や汚れは中性〜弱アルカリ洗剤→清水リンスで多くが解決します。
  5. 質問: 費用の考え方と見積りで確認すべき点は?
    回答: 総額は「基礎単価×実塗り面積×パターン係数+足場・養生・搬出入+季節係数+予備費」。見積りでは下地・ラス・メッシュ位置、パターン名、コーキング層別、ドリップ付水切りなど雨仕舞いの明記を確認しましょう。
Author:神谷幸仁

株式会社 川幸 代表取締役

対応エリア:名古屋市など愛知県内全域、その他(岐阜、三重、静岡など一部)
対応できる工事:左官工事業・屋根工事業・板金工事業・塗装工事業・防水工事業・内装仕上工事業
お薦めのデザイン:
備考:左官のみならず、住宅の困り事は何でもご相談ください。
<プロフィール>
愛知県高浜市出身、丑(うし)年、かに座
【好きなもの】レバニラ炒め、ペプシコーラ、映画:フォレスト・ガンプ/一期一会、書籍:昭和歴史 昭和天皇関連本、絵画:鏝絵、作家:伊集院静、筆記具:万年筆
【苦手なもの】携帯電話の取り扱い説明書、コカ・コーラ、簿記経理の本、キャバクラの女の子、生温くなったアイスコーヒー
【マイブーム】ボールペンを使いきって、替芯を買う事

0566-53-1214
愛知県高浜市田戸町3丁目6−12