左官のプロが解説 | そとん壁のメンテナンスと経年変化|高圧洗浄・コーティング・部分使いの実務
そとん壁を採用した後、多くの方が気にするのが「経年でどう変化するのか」「汚れたらどうメンテナンスすればいいのか」という点です。ネット上では「ボロボロ落ちる」といった不安を煽る情報も見られますが、実際の現場ではどうなのか——正しい知識と適切な手入れ方法を知ることが、長く美しい外壁を保つ鍵となります。

主要トピック「そとん壁の外壁 完全ガイド」
こちらの関連記事では、総合的に「そとん壁」について解説しています。この記事の後に是非ご一読下さい。
今回は、設計士からの依頼も多く、全面使いから玄関・中庭などの部分使いまで幅広い施工経験を持つ左官のプロ・田口時育氏に、そとん壁の意匠性と経年変化、高圧洗浄やコーティング材の活用、「ボロボロ問題」の実態、そして下地品質の重要性まで、維持管理と意匠活用の実務を伺いました。自然素材ならではの風合いを長く楽しむための知恵が詰まっています。
そとん壁の意匠性と自然素材ならではの経年変化
そとん壁が設計士や施主から選ばれる理由は、その「風合いの柔らかさ」と「意匠性の高さ」にあります。板金やサイディングにはない、手仕事の温かみと素材感が、住宅に風情と格を与えます。
全面使いでは重厚な存在感が生まれる一方、玄関まわりや中庭など部分的に使うことで、効果的なアクセントとして機能します。自然素材ゆえに経年で汚れが目立つ場面もありますが、適切なメンテナンスを行えば美しさを保ちやすく、むしろ年月とともに味わいが深まるのが塗り壁の魅力です。
田口氏が強調するのは「耐久性・対候性・メンテナンス性を他素材と価格も含めて比較し、納得して選ぶ」という視点。そして採用後の維持管理方法を事前に理解しておくことが、20年後の満足度を左右します。
左官のプロ 田口時育が語る|メンテナンス実務と意匠活用の知恵
そとん壁の施工について知りたいわ。
「そとん壁」は設計士から結構依頼がある。お客さんがそとん壁の情報を見て、一軒丸ごとやりたい!みたいなケースも多いし、玄関だけとか、中庭だけとか部分的に使う場合と半々かな。
設計士からもユーザーからも人気があるのね。
意匠的というか風合いが良いよね、板金やサイディングは工期が短いメリットはあるけれど、やはり塗り壁の意匠性は高い。それと塗り物は自然素材なので、他の壁材と比べて経年の汚れが目立つけど、少しメンテナンスすればきれいになるし長持ちする。
そとん壁はボロボロ崩れるの?ネットでそういう記事を見たわ。
壁がボロボロ落ちてくるというケースは、これはそとん壁に限らず塗り壁全般の話になるけど、昔の素材は土とか泥の成分が多かったから表面がはがれてくる事があったが今は殆どない。それと表面の塵は、仕上げの段階でブラシで払うのでめったに起きないよ
何か対策はあるの?ボロボロ外壁が落ちてきたら後悔するかも。
コーティングするかも考えてみるわ。
ちなみに スチロール鏝 仕上げだと、経年で汚れても高圧洗浄機でかなりキレイになる。カビや藻も綺麗に落ちると言われているよ。圧力が高すぎると外壁を痛める場合があるから注意が必要だけどね。
そうなんですね。
今は波ラスで下塗りをする、その上から上塗り材を塗るので不具合は殆ど心配ない。どちらかというと上塗り材よりも、下地がどれだけしっかりしているかの方が重要かな。これもそとん壁に限らず塗り壁全般に言える事だけど。
塗り壁は下地作りが重要なのね。ちなみに田口さんのそとん壁のおすすめポイントはどんな点ですか?
どの外壁素材を使うかって、とても迷うわね。
塗り壁は手仕事だから、そとん壁のような自然素材の価値と併せて、技術の価値が伝わっていく事は良い事だと思う。
白洲(シラス)という昔ながらの素材に、時代を超えた価値があるのかも。
この記事のまとめ|正しいメンテナンスと部分使いで長く美しく
田口氏のインタビューから見えてきたのは、そとん壁は「適切な手入れ」と「意匠的な使い分け」によって、自然素材の価値を最大化できる外壁材だという事実です。以下の4点が特に重要なポイントとなります。
「ボロボロ落ちる」は誤解——現代の素材は安定している
ネット上で見られる「そとん壁がボロボロ落ちる」という情報の多くは誤解です。
- 昔の素材:土や泥成分が多く、表面が剥がれることがあった
- 現代の素材:波ラス下地+改良された上塗り材で、不具合はほとんど発生しない
- 施工直後の塵:仕上げ段階でブラシで払うため、めったに問題にならない
むしろ重要なのは「上塗り材よりも下地の品質」。適切な下地処理と波ラスの施工が、長期的な安定性を支えます。
高圧洗浄とコーティング材で美観を維持
自然素材ゆえの経年汚れには、以下の対策が有効です:
高圧洗浄(スチロール鏝仕上げ):
- 藻やカビも含め、かなり綺麗に落とせる
- ただし圧力が高すぎると外壁を痛めるため、弱圧(0.7〜1.0MPa程度)で
コーティング材の活用:
- 漆喰やかき落としに相性の良い仕上げ材が登場
- 自然素材の風合いを保ちながら強度を確保
- カチコチにはできないが、十分な耐久性が得られる
定期的な洗浄とコーティングの組み合わせで、塗り壁は長持ちします。
部分使い(玄関・中庭)で意匠性を効果的に演出
田口氏のもとには、設計士からの依頼が多く寄せられます:
- 全面使い:一軒丸ごとそとん壁で重厚感と統一感を出す
- 部分使い:玄関まわり、中庭、アクセント壁など効果的な箇所に限定
部分使いのメリットは、コストを抑えつつ「ここぞ」という場所で素材感を際立たせられる点。特に玄関は来客の目に触れやすく、そとん壁の風合いが住宅全体の印象を格上げします。
下地品質が長期安定性を左右する
田口氏が繰り返し強調するのは「下地がどれだけしっかりしているか」の重要性:
- 波ラスの適切な施工
- 透湿防水シートの連続性
- ラス留め付けピッチの遵守
- 下塗り材の均一な厚み
「上塗りの美しさは下地で決まる」——これは塗り壁全般に言えることですが、そとん壁も例外ではありません。見えない部分への投資が、20年後の品質差となって現れます。
採用・維持管理時のチェックポイント
そとん壁の意匠性と耐久性を両立させるために、以下を確認しましょう:
採用時:
- 使い方の明確化:全面使いか部分使いか、アクセントの位置
- 他素材との比較:耐久性・対候性・メンテナンス性・価格のバランス
- 下地仕様の確認:波ラス・防水シート・留め付けピッチの明記
維持管理時:
- 定期洗浄:5〜10年目安でスチロール鏝仕上げは弱圧の高圧洗浄
- コーティング再評価:仕上げ材や撥水材の追加で強度・防汚性を維持
- 部分補修の判断:経年汚れが気になる箇所は、洗浄→塗り直しで美観回復
そとん壁は「手間がかかる」のではなく、「少しの手入れで長持ちする」外壁材です。自然素材の風合いと塗り壁の技術的価値を理解し、適切なメンテナンス計画を立てることで、時を経るごとに味わいを増す外観が手に入ります。設計士や左官のプロと相談しながら、住まいに最適な使い方を見つけてください。

主要トピック「そとん壁の外壁 完全ガイド」
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株式会社 田口業務店 代表取締役
経歴:昭和40年創業の2代目、前職も含めタイルと左官に携わり30年以上の経験と実績。店舗工事や土間工事にも精通している。
「良い物は長持ち」がモットーで、古民家再生など街の困り事を左官の技術を使い解決に取り組んでいる。
対応エリア:名古屋市など愛知県内全域、その他(岐阜、三重など一部)
対応できる工事:タイル工事、土間工事、外構工事、漆喰・珪藻土 など内外装工事
お薦めのデザイン:ウェーブ系, マーブル系
備考:趣味は山登りとフライフィッシング。自然に触れるのが好きで、最近は野菜作りにハマっています。
<プロフィール>
名古屋市南区出身、酉(とり)年、ふたご座
【好きなもの】寿司、米焼酎、フライフィッシング、ワカサギ釣り、サイクリング、都市伝説、料理
【嫌いなもの】真実を語らないマスコミ、背脂たっぷりのラーメン、嘘つき政治家、添加物たっぷりのコンビニ弁当、やたら甘いラクトアイス
【マイブーム】ルンバの世話
